はじめに…主体性と自主性
私たちの園では、「幼児期の主体性を伸ばし、自分で考え、決め、行動できる子に育って欲しい」と願っています。
一般的に「主体性」という言葉は、「あらかじめすることが決められていない場面でも、自発的に自分自身でするべきことを考え、決める態度」(≒0から1を生み出す力)として用いられます。
主体性とよく混同される言葉に、「自主性」があります。こちらは「誰かに言われたことなど、あらかじめするべきことが明確に決められている場面で、それを積極的に行う態度」です。
昨今、「主体性」という言葉は様々な用い方をされます。
例えば、文部科学省が「アクティブ・ラーニング」という言葉を意訳して「主体的・対話的で、深い学び」としているように、「幼児期の主体性」という言葉は、それはそれで独自の意味合いを持って用いられていると感じています。(小学校教諭と保育者の間でも、「主体性」の捉え方は異なっています)
では、私たち保育者が用いる「幼児期の主体性」という言葉の指すものとは、どのようなものでしょうか?そして、それを伸ばすための「子ども主体の保育」では、どのようなことが必要になるのでしょうか?

「幼児期の主体性」が発揮されている姿とは
よく「幼児期の主体性は、高めたり伸ばしたりする援助はできるが、教えることはできない」といわれます。また、「幼児期の主体性と自主性は絡み合って育つ」ともいわれます。しかし、この言葉だけでは、なかなか具体的な子どもの姿を想像できません。
例えば、「幼児期の主体性」が最も発揮されている場面として、誰しもに一番馴染みのある光景は「自宅で子どもたちが鼻歌まじりに機嫌良く遊んでいるところ」が挙げられます。
保護者から「あなたはこの玩具を使って、○○分間この遊びをやりなさい」などと指示されなくとも、子どもたちは自分で好きなように玩具を選び、遊びの設定を考え、自分の世界に没入して遊びます。自分の通う園で覚えた歌を口ずさんだりしながら、その日の印象に残った出来事を再現したり、保育者の真似をするごっこ遊びなどをしていたりしたら、もう最高です!
これこそまさに、園で経験して身につけた資質・能力を使いこなしながら、主体的に遊び学びを展開している姿であり、「幼児期の主体性」が発揮されている場面といえるでしょう。つまり、教わったことなどを自分の意思で使ってこそ伸びる力のため、「教えることはできない(教えようとした瞬間にそれは幼児の意思では無くなり、主体性は伸びない)」などと言われるのです。

加えてここにもう一点。「幼児期の主体性」には集団が大きく関係します。「2歳児のイヤイヤ期」という言葉がありますけれど、2歳児までの自己中心的な「自己主張」と3歳児以降の「幼児期の主体性」では、「集団に入り、自分と他者との関係性をふまえたうえで自分を出そうとし、自分のやりたいことを実現するためにいろいろやりくりしようとする」という点が異なります。
私たちは、このような特性を持つ「幼児期の主体性」を伸ばしたいと願い、「主体性」と「自主性」の違いに留意しつつ、バランスのとれた保育を展開しようと努めています。
「幼児期の主体性」を伸ばす「子ども主体の保育」とは
もうおわかりだと思いますが、園生活において「幼児期の主体性」を伸ばすためには、保育者が指示的ではなく対話的・応答的に関わりながら、子どもたちが自分たち自身で考えたり決めたり、身につけた資質能力を発揮したりする機会をたくさん用意してあげることが必要だということです。
それはつまり、「何かを作ったら、作ったものを飾っておしまい」ではなく、「作ったものを使って遊ぶ。壊れたら修理する。それを繰り返しながらものの特性を知り、新たにつくるものを思いつき、さらに工夫をこらしていく。」といった営みを繰り返すことを指します。
このような要素を持った保育が、「子ども主体の保育」と呼ばれています。

私たちの園では、2018年度より、鈴木正敏先生(兵庫教育大学大学院 准教授)に年間5回の園内研修でご助力をいただきながら、楽譜という正解に向かって反復練習をしていただけの音楽会を、文化祭「いぶきわくわくフェスタ」へと進化・発展させました。
フェスタは、子どもたちが遊び学びの主体として、自分たちが「やってみよう!」と思ったこと、「これをやりたい!」と実現にこだわったこと、保護者を含むお客さんに「見て見て!」と見せたくなったことなど、子どもたちの「遊び」と「学び」と「思い」が中心で構成されています。
出展内容は歌や合奏に制限せず、ダンス・ショー・劇・お店屋さん・パビリオンなど、各クラスで子どもたちと保育者が一緒に話し合いながら自由に発想をふくらませていきます。また、音楽会からフェスタへの進化・発展をきっかけに、園生活の中で日頃から「考える(状況を分析する、相談する等)→やってみる(実行する、試す等)→振り返る(良かったところ、困ったところ、課題解決等)」という、仮説検証思考に似た「学びのサイクル」をたっぷりと経験できるよう、保育内容が全般的に変容してきました。

自ら「新しい園生活」を築く5歳児の姿
入園時からこのような園生活を積み重ねてきた子たちが、2020年度は5歳児になりました。すると、コロナ禍が発生して誰も正解がわからない状況下において、6月の登園再開以降、5歳児そら組の子どもたちは、自らコロナウイルスについて調べ、クラス担任と一緒に感染症対策を考え、実行し始めました。そら組の主な活動の履歴は以下の通りです。
1学期
- 自分たちのコロナウイルスに関する疑問をアンケートにし、保護者と教職員へ配布する。回答から得られた知識を踏まえながらコロナウイルスについてさらに調べ、感染症対策について話し合う。
- 1mのソーシャル・ディスタンス棒を携えて園内各所を調べて回り、男子トイレに飛沫防止ボードを製作・設置する。
- アルコール消毒液とその使用を呼びかける看板を園内各所に持ち運んで設置する。
- 夏休み前に、自分たちがこれまでに知ったことをコロナウイルス新聞としてまとめ、全学年へ配布する。
- 足踏み式消毒台を自作しようと試み、その構造を調べ始める。
2学期
- 足踏み式消毒台のバネの構造を解明するのに苦心しながら試行錯誤を繰り返し、最後は園長に手伝ってもらい、足踏み式消毒台を完成させる。
- フェスタでは回転寿司・お菓子屋さんと合わせて、マスク屋さんも出展する。
3学期
- 一年間の園生活と感染症対策を振り返り、オリジナルの劇を製作し、生活発表会で発表する。
「コロナ禍でも(コロナ禍だから)出来ること」を、保育者が子どもたちと対話的に関わりながら一緒に考え続け、保育者はその考えや意欲を受け止め、子どもたち自身が考え続けられるよう活動を展開していきました。そして、子どもたちも保育者も、一緒に成長する歩みを止めませんでした。
鈴木正敏先生は、「これからの子どもたちは、環境を大人から与えられて受け身的に生活するのではなく、自らが主体的に環境を変えていくことに慣れてくるでしょう。」とおっしゃいます。自画自賛になりますが、そら組の子どもたちは、まさにそのような姿を体現していたと思います。
今後の彼らの成長が楽しみであると同時に、これからも園生活で子どもたちと保育者が自らの主体性をいかんなく発揮できるよう、支え続けていきたいと思います。
おわりに
最後に。このような保育の営みを日々展開していくうえで肝要となるのは、「保育者自身の主体性」を支え、「失敗は成功のもと」と捉える、園の組織文化や風土です。既存の保育内容・方法・技術などを真似てなぞるだけでは、子どもも保育者も自主性に片寄った成長をしてしまいます。その点をトップリーダー層はよく知っておく必要があると思います。

